rememberのゆめにっき

現実のことも書くが

漆黒の彼の、一撃

【七月一日】

 暗闇の中……窓の網戸越しに見える木の葉、俺が仰臥しているベッドの縁、メタルラックのポールなどが月の光に照らされて、ほとんどが漆黒に包まれている中それらのものが深い紺色となって浮かび上がり、わずかながら俺は視認することができる。海底の中にいるようだ。月の光? それはお前の勝手な思い込みだろう。どこに月なんか出ているんだ? ちゃんと確かめたのか。もしかしたら月なんかじゃなく違う何かの発光体があるのかも知れない。現実を確かめもせずイメージだけで決めつけるのはお前の悪い癖なんじゃないか…。

 俺は天井を見つめている。特に目的はない。強いて目的を挙げれば、雨音を聴いている。雨が、裏庭の樹木、屋根の瓦、父親パジェロ、ぬかるんだ地面に、おそらく平等に降り注いでいて、その激しくも優しくもないただの音の粒を俺の耳は拾い続ける。次第にそれは…人がしゃべっているように聞こえてきた。これは生身の人間の声じゃない。TVに映っている平面の人間が放つ音声だ。ニュースキャスター? 今の、この雨の情報を伝えている? 一階で(俺の部屋は二階)親がTVを見ているのか? いや、この空間を包んでいる暗闇の色彩から判断すると、今は深夜の二時か三時のはず。俺の親はそんな時間に起きているような人間じゃない。ということは…。俺はほくそ笑んだ。

 …ふふふ。これは、幻聴だ。やったね。俺が望んでいたものだよ。うふふ。もっともっと、現実ではありえないサウンドを聴かせてくれ。狂人の脳内世界のようなビジョンを俺に見せてくれ。そして、俺を社会から、完全に、ドロップアウトさせろ!

 

なんとなく首を左後方にねじり、つまり窓の外の景色を観ようとした訳だが、窓の縁に何か、掌に乗るくらいの四角い物体が置いてあったのだ。最初それは弁当箱だと思った。俺がイオンで買った、丼型のものだ。よく自分で作ったインドカレーを入れて食べていた。はて? なぜそれがここにあるのかな? 不思議に思った俺は思わず起き上がって確かめようとした。

ベッドのすぐ横に、一人の人間が立っていた。

部屋は暗いから、その人間はシルエットしかわからない。が、性別は男だとわかった。

俺はベッドに座った状態から、男を見上げた。その時、

「ガン!」

と、頭の中で大きな音がして、脳が痺れたようになって、後方にぶっ倒れた。

 

 そして数秒後、

「ハァー!」

という、甲高い怪鳥のような自分の叫び声で目が覚めて、起き上がった。

 男はもういなかった。

 雨は降り続いていた。

 俺は思った。

 

 夢だったのかよ、畜生!