rememberのゆめにっき

文筆の訓練のようなもの

うんうんうん

【七月三日】

 バイト先の店長に電話をする。

「もしもし」

「もしもし? さっきはゴメンね! ちょうどFCの会議中だったからさあ~。最近連絡してなかったから、今日連絡しようと思ってたところなんだけど」

「あの、前に僕、風邪を引いたって言ってバイト休んだじゃないですか」

「うんうん」

「あれ、実は、う、う、嘘、だったんですよ」

「ああ、あっはっは。ああそうなの」

「はい。実はほんとは、あの、整体の学校の就職が、ダメになったんです」

「……え!?」

「はい。実はそういう事情で。僕の一つ前に卒業した人がその学校の整体院に就職して、それで人数はいっぱいになったらしいんです。もう求人はしていないと」

「…ああ、そうだったの」

「で、それで何もかも嫌になって、自暴自棄になってたっていうか」

「…」

「でもその学校の院長が言うには、将来的には人員を増やす可能性もないわけではないと言ってるんですね」

「うんうんうん」(この「うんうんうん」というのは店長の口癖である)

「それにもし誰かが辞めたらその空きに僕が入れるかもしれないし。僕としてはその整体院に就職したいんですよ。で、卒業した後も学校に行って実技の練習はできるので、とりあえず学校には行き続けようかなとは思ってるんです」

「なるほどねえ」

「はい。で、バイトの事なんですけど。そっちで新しい人雇っちゃったじゃないですか」

「そうなんだよねえ。鈴木君は七月あたりに辞めるって聞いてたからさあ、六月に雇っちゃったのよね」

「はい。で、それでもう人数は足りてるわけですよね」

「そうなのよねえ。こんな風になるとは思ってなかったからさあ」

「僕も思ってませんでした。ただまあ仕方ないです。で、僕としては次のバイトを早く探したいので、今月の十五日付で辞めさせて頂くことはできませんか?」

「それは全然かまわないよ! 嵐山さんもそうした方がいいんじゃないかって言ってたし。あ、それでさあ、バイト探してるんだったら、高須生花店でやってみない?」

「高須生花店ですか?」

「うんうんうん。高須店長がさあ、人がいなくて困ってるって、この間ボヤいてたんだわ。バイトでもいいらしいよ。もしやりたいんだったらこっちから紹介もできるけど」

 俺は迷った。高須生花店……生花の仕事もこっちの仕事と同じように、いろんなホール回るんだろ? 嫌なんだよなあ、東奔西走するのは。この仕事やってみて分かったけど、ものすごい疲れるしストレスもたまるんだよな。俺道覚えられないからいちいちスマホのナビ使うしかないし。俺みたいなやつ他にいないからナビ使ってること隠してたもん。あそこに行くにはあの道を通って~みたいな会話、全然できなかったし。高須生花店でも同じようなストレスには晒されるだろう…。できれば定住型の仕事がいい。

「ただ生花の仕事は拘束時間が長いんだわ。朝が早くってね。ただまあ、シフトに関しては高須店長に言えばよく聞いてもらえると思えるけど…」

「はい。あの、それに関しては保留というか、ちょっと考えさせてもらえませんか」

「うんうんうん。まあ全然かまわないよ」

「あと、僕の先月分の給料、今そっちにあります?」

「ああ、あるよ! ひーちゃんに渡してあるから、いつでも取りに来ていいよ」

「はい。じゃあ今日の夕方ごろにお伺いしてもいいですか?」

「うん、いいよ。社長もいるだろうから。鈴木君の都合がつく時間でいつでも取りに来ていいよ」

「はい、じゃ、お願いします」

 

 

 

 いつの間にか俺は車に乗っていて、見慣れない駐車場にいた。俺は車から降りると、整体院のスタッフ数名が俺に駆け寄ってきた。しかしどこか様子がおかしい。どうやら、俺が先日ツイッターでつぶやいた発言が、反体制・反権力的な内容だったらしく、日頃から隠していた俺の根幹を司っている思想が皆に知れ渡ってしまい、あいつは危険人物だ、関わってはいけない、という風に皆思っているようだった。一人の年下のスタッフが俺に向かって勢いよく走ってきて、すれ違いざまに俺の胴体に伝票を叩きつけていった。伝票には決して安くはない金額が赤字で描かれていて、どうやら俺に支払えということらしかった。俺は年下の人間になめられているように感じ、憤慨した。