rememberのゆめにっき

文筆の訓練のようなもの

アルバイトの研修

【七月十七日】

 レジカウンターの内側にいる。なぜそうなのだと分かるかというと、以前俺は中古の商品であれば何でも扱うかのようなリサイクルショップでアルバイトをしていたことがあり、そこのレジカウンターの中の光景とよく似ていたからだ。カウンター全体の長さは十メートルほどと長く、中央の部分は天井と繋がっていて、それより右がレジ1、左がレジ2といった風の造りだった。

 内側から見て右側のレジにお客さんが来て、誰か分からない店員が一人で対応している。俺は手持無沙汰だったのでサポートせねばと思い、レジのパソコンの前、その店員の左側に移動する。店員はお客さんが持ってきた商品を俺の目の前に置いた。駄菓子のようなものが二種類、それぞれ三個ずつあった。さんにがろく。俺はそれをスキャナーで読み取ると、商品名がパソコンに表示された。個数の数値を変更しようとキーボードで入力しようとしたが、俺はそのやり方がわからず狼狽した。

 お客さんも俺の隣にいた店員も消え去っていて、俺だけがレジの中の取り残される(もっとも「取り残される」とは俺の主観でしかなく事実とは異なる可能性もある)。そこに二人の、まだ垢抜けていないような中学生くらいの女子が来訪し、スケッチブックのようなものをレジに差し出した。二人は十センチくらいの身長差があり、背の高い方は黒ぶちの眼鏡をかけていた。

 ……二人は美術部員になった。

 少々お待ちください。そう二人に告げ、俺は他の店員を探したのだが誰も見当たらず、ということは俺が対応するしかないということだ、という結論を下しレジに向かう。……あれ、左側のレジだったっけ? さっき君らが来たのは右側のレジだったような気がするが……

 スケッチブックのバーコードをスキャンした。するとパソコンの画面には、そのスケッチブックを販売している会社のホームページが映し出された。何でこんなことになるんだ!

 

 

 

 バイト先の研修に行く。……これは覚えること、というか決まりごとが多すぎる。あと言葉の選択を矯正させられることにかなり抵抗がある。例えば、「お会計○○○円になります」と言いたいところを「お会計○○○でございます」と言わなければいけなかったりとか。

これなら前のバイト先の方が楽だったかも……などと恐ろしい思考が一瞬脳内に走る。

 

日中、網戸に親指くらいの緑色の蟷螂がへばりついていたので、写真を撮った。

 

【七月十八日】

 蠅の王読了。この本は五年程前に一読していたのだが、ブックオフで売ってあるのを見つけ、思うところがあったので再読した。

 島の外観の描写は色彩感覚に富んでいるが、全編にわたってそれが行われていてくどくどしく感じた。中盤の、烽火を上げて救助隊が発見してくれることを待つ理性的なグループと、島の豚を殺し肉を屠ることを優先する野生的なグループとが、口論して対立するシーンは面白かった。しかしこの中盤から後半にかけて似たようなシーンが多くて、これも冗長気味に感じた。

 俺はサイモンという少年に自分を見出していた。この島には何か、人間の獣的・悪魔的な性質を呼び覚ましてしまうかのような「獣」がいて、まあそれは実体がない霊のようなもので「蠅の王」とはこれを指しているのだが、少年たちはその蠅の王に潜在的な恐怖心を抱く。ところがこの蠅の王と真っ向から立ち向かう勇気を持っている少年が一人だけいて、それがサイモンというわけだ。ユングのタイプ論で言えば、彼はおそらく俺と同じく内向的直観型なのだと思う。

 ラスト、救助隊が島に登場するシーンは、それまでこの島を覆っていた、生き物の腐敗臭が混じった黒い濃霧が一気に霧散したかのようで、鮮やかだった。

 

 ネットで注文した本が届く。

・新装版 虚無への供物(上・下)/中井英夫

 思ったより厚いな。こんな本俺に読めるのかな…

 

 研修二日目。そんなに肉体を動かしていないはずだが疲労がひどい。おそらく緊張のせいだと思う。

 

【七月十九日】

 居酒屋の中、畳の上に長テーブルがたくさん、人もたくさん、同窓会? あそこにいるのは家の近所に住んでいる俺と同じ苗字の同級生、彼が呼んでいる、もうビール三杯も頼んでるんだけど! テーブルの上にビールはない。すみませんすぐお持ちいたします。奥の座敷の部屋に向かう部屋は明かりがついていなく暗いテーブルの上にグラスとか皿とかがある誰もいないビールサーバーがあった。俺はピッチャー三つにたっぷりとビールを注ぐ。あれ、彼が言っていたのはグラスの方ではなかったか。間違えてしまったすみませんピッチャーの方に注いでしまったのですがこちらでもよろしいでしょうか。「うん、まあ別にいいよ」研修三日目。

 

 

 

 虚無への供物、断念する。この本を書いた人と俺は生まれが違う。無理だ。

 本屋へ行き本を二冊買う。

・ジキルとハイド/スティーブンソン

・シッダールタ/ヘッセ

 どちらの本も(俺はここで、「○○のように薄い」という比喩表現をしたかったのだが、適当な比喩が一つも思い浮かばなかった。一つもだ。だから定規を使って実際に厚さを測ることにした。ジキルとハイドが八ミリ、シッダールタは七ミリだった。ふと、俺の小指を側面から見た厚さを測ってみる。一センチあった。七ミリと一センチでは結構な差がある。でも俺の小指の厚さなんて誰も知らないし、こんなものはどうにだって誤魔化せるのだ。だから俺は)俺の小指くらいの厚さしかない。これくらいだったら最後まで読めそうだった。

 俺は今年で三十になり、そこでようやく気付いたのだが、俺は頭が悪いのだ。そんな俺でも最後まで読める本を、く、れ。

 

 炒飯を作る。

〈材料〉

白飯、サラダ油、ゴマ油、ナス、キノコ、塩、ホワイトペッパー、ウェイパー、味噌、クミン、卵、ニンニク、生姜。

 早く、早く作らないと、注文が……

 厨房に向かう。あっ、君は、以前俺と一緒に毛布にくるまって抱き合った、女芸人の……