rememberのゆめにっき

現実のことも書くが

水没した街を泳ぐ

【七月二十日】

 これは昨日の話になるので、一旦昨日に戻ります。

 

【七月十九日】

 本を買った後、その本屋の近場の公園に行って、車の中で買った本を少し読んだ。車の窓をすべて全開にする。よく晴れていたが何故かそんなに暑くない。何ものにも属していない風が車の中を、右から左に吹き抜けていく。俺はその風を存分に味わった。気持ちよかったが楽しくはなかった。

 車のフロントガラス越しに、五人の老女がほぼ並列の状態で歩いているのが見えた。そのうち一人は着物を着て、黒い海星(ひとで)のような日傘をさしていた。順当に社会での経験を積んだ者なら、あの五人がどういった団体で何の目的を持って集っているのか、おおよその見当はつくのだろう。だが俺はそれがないものだから、彼女らの目指すところなど見当がつかない。だが楽しんでいるのはわかった。

 拡声器で増幅された表面にざらつきのあるような声、女性のアナウンスが、わずかに聞こえた。この近くには去年設立されたプールがあるのだ。猛暑の日に行こう。

 

 家に帰った後、部屋の中の要らない物を段ボールに収め、物置にしまった。その時、物置の中にしまってあった黒いローテーブルを探した。

 少し探した後、あれはリサイクルショップに売ってしまった事を思い出した。

 

 

 

 ここがどこなのか分からない。暗い。車の中なのかな。母親が俺にテストの結果が書かれてある紙を見せる。何枚もだ。そのテストは満点が五百四十点だったり五百点だったりとバラバラだったが、どれも俺の成績は百点とかで、悪かった。

 母親がこう言った。

 もうお金がないから、送り迎えはできないかもしれない。

 

 俺は思った。

 今更勉強の話はやめてくれ。もう何もかも手遅れなんだ。

 

 

 

 戻ります。

 

【七月二十日】

 車検の為ニッサンに行き車を渡す。代車として軽の車を受け取る。

 ジキルとハイド読了。中盤、アタスン一行がジキル博士の部屋の扉を破壊して侵入しようとするシーンはサスペンス調で面白かったが、それ以外の所はあまり楽しめなかった。

 夜、イオンにバターチキンカレーを食べに行く。ウェイターがいないようで、料理人が直接注文を取りに来た。普通の味だった。今日は研修無し。

 

【七月二十一日】

 何もやる気が出ない。クソが。全て消えて無くなれ。

 

 

 

 部屋の中、整理。要らなくなったものを物置に片付けたり、ゴミに出したりした。「要らなくなったもの」について説明したいが、何故か書けない。

 俺の部屋から必要ないものが少しずつ消えていく。

 アルバイト初出勤(店オープニング)。ひっきりなしに客が入り、何がなんだかよう分からぬ。本部の人? が多数いて、いろいろ教えてくれたので何とかやり切った。

 疲れた。また下肢全体が疲労している。アイシングをする。

 

【七月二十二日】

 アルバイト二日目。俺のバイト先のコンビニは厨房があって、何故あるのかといえばファーストフードのような簡単な調理をしてそれを客に提供するというサービスを実施しているからであり、なので働いている感覚としては半分飲食店のようなものだ。飲食店でアルバイトの経験がある方はわかると思うが、ピーク時の忙しさはすさまじい。

 働いている間、皆何をモチベーションにして仕事をしているのだろう、と思う。

 

 バイトは十七時から二十二時まで。バイトが始まる時間まで俺は何もやる気が起こらず、ベッドの上でただ本を読んでいた。いや、ただ文字を追っているだけだった。それは読書とは言えなかった。空虚でしかなかった。

 

【七月二十三日】

 片側二車線の道路が、石造りの柱が、コンビニが、民家が、水没している。水に浸かっている。その水はとても澄んでいて、直接飲みたいくらいに綺麗だった。人、車、犬、鳥、虫、風、それらは全て、消え去っていた。ささやかな陽光、夏場の午前五時くらいの陽光が射していた。何の音も聞こえない。一切合切が静寂に包まれている。石造りの柱はもう一つの二車線の道路を支えていて、それは直接駅につながっている道だった。ここはその駅の周辺の道だ。水面は石造りの柱の約三分の一、地面からの高さにして約四メートルに張っていた。風呂場の浴槽に張られた水のように、水面に波は微塵も立っていない。立つ様子もない。

 俺はその静寂の空間の中、駅から遠ざかる方へと泳いだ。体力に自信はないが、泳ぐのは嫌いではない。しばらくすると、水の流れが存在するところにたどり着いた。説明が難しいのだが、その水の流れの方向は俺から見て右から左に向かっている。そして、今俺が浮いている水とその流れている水はつながっていて、なので今俺がいる水はその流れの影響を受けても良さそうなのだが、二つの水は全く別個の存在のように、何の干渉もなく在った。(上手く伝わってないと思うので別の表現を用いて説明する。アルファベットの「T」を思い浮かべてほしい。真ん中の縦線は俺が浮かんでいる、何の流れもない水の経路を表す。横線は流れがある水の経路で、先ほども言ったように右から左に流れている。俺は縦線の一番下の部分から上に向かって泳いでいき、今横線とぶつかる位置にいる。で、横線の流れがある水と縦線の流れがない水はつながっているのだから、縦線の水も横線の水の影響を受けてある程度流れが発生してもよさそうなのに、縦線の水は微動だにしない、ということだ。横線の水は確かに水なのだが、縦線の水は寒天のようだった)。

 数人の人間が、その水に流されていくのが見えた。その速さは自転車で走行するのと同じくらいだった。人間に何か赤い物体が付随しているのが朧気に見えた。俺は、これは水泳の大会をしているのだな、と思った。

 その水の流れの中に俺は入った。そして流されていった。それが能動的に自分の意志でそうしたのか、受動的に巻き込まれたのかは分からない。

 

 地上から百メートルほどの高さにある道路、ここは国道だな。水の流れに乗って、今俺は国道を泳いでいる。道路の両端には二メートルくらいのグレーの敷居がある。それ以外には青空を覆っている雲しか見えない。

 道路の左側に、地上に降りるかのように作られた階段があった。俺はその階段の方に流れていった。

 階段は途中で消失していた。宙に浮かんでいる状態だった。俺はどうしていいかわからず、そこで静止した。

 その時、そっちじゃない! という声が聞こえた。

 声が聞こえた方、すなわち上の、俺が泳いでいた国道の方を見上げる。国道の両端の敷居から顔をのぞかせている女性がいた。その女性はテレビのバラエティ番組でよく見る、グラビアアイドル出身のタレントだった。

 

 水は干上がっている。元の街並みに戻っていて、太陽の光は夏場の午後二時くらいの強さだった。人や車もぼちぼち存在しているようだった。

 俺は最初いた駅近くの大通りにいて、歩いていた。何かの店に着く。小豆色の制服を着た三十代くらいの女性の店員が現れて、ここの店ではやっていません、あちらの店に行ってください、と入店を拒否される。俺はそのぶっきらぼうな対応に不満を持った。

 踵を返して女性店員が指示した店の方へ歩いていく。その店の外壁には赤い旗が立てかけられていて、いくつかの文字が記されていた。それらの中に、「湯」という文字があるのを俺は視認した。俺は体を洗いたいのだな、と思った。

 その時、大通りの反対側に着物を着た老女が現れた。その老女は何かの建築物の中に入っていったのだが、途中で手や足が分断され、それが自身の体に変な方向で再びくっつき(出血はしていない)、体全体が四角い箱に無理矢理詰め込んだかのように四角くなり、体を微動だに動かさず床をスイーッと滑らせて行った。ルンバのような動きであった。また、昔のアクションゲームのバグ画面を見ているかのようでもあった。

 老女は滑ったまま地下鉄のような、地下に続く階段に吸い込まれていった。そしてその階段を一段下るたびに、ダン、という音が聞こえた。老女は一定の速度で滑っていたから、ダンダンダンダンダンダンダンダン、とリズミカルに音が鳴った。そして、パキョッ、という音が聞こえ、その後は何も聞こえなくなった。俺は、あれは頭蓋骨が粉砕した音だな、と思った。

 

 室内にいる。先程の「湯」という旗が掲げられていた店に俺は入ったのだろうか。カウンターがあって、その中に三十代くらいの男性、短髪で髭を生やした男性がいた。その男性は俺に向かって、

「そのくらいの金しか出せないんじゃあ、一番ランクが低い娘しか案内できませんよ」

と言った。

 どうやらここは風俗店らしい。

 浴室内に入る。そこには黒人のように黒い肌をした、しかし顔つきは日本人の女性がいた。年齢は俺と同じくらいだろうか。浴室にお湯が張ってあり、そこにタオルにくるまれた赤ん坊が浮いていた。あの女性の子供なのだろうか。

 俺はその黒い肌の女性から、快楽の施しを受けた。内容に不満はなかったが、彼女の体から汗とか垢とかいった分泌物の臭いがして、それが少し不快に感じた。

 

 白い床、壁、天井。それらにはグリッドが刻まれていて、床は蛍光灯の光を反射していた。ここは病院だな。

 布団がかけられたベッドがある。その布団から、何か茶色い山のようなものがはみ出しているのが見えた。……これは犬だ。犬の背中だ。柴犬だろうか。犬の頭は布団の中に入っていて見えない。何故ここに犬なんかがいるのだろう。

 俺は犬の背骨に沿って、何か冷たい物体を宛がった。そして布団の中に入り、犬と一緒に寝た。

 

 

 アルバイト三日目。少し慣れてきたかな。