rememberのゆめにっき

現実のことも書くが

未だ魂の底で燃え続ける緑色の炎

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 視界に在る壁や床のその真っ白さからは、保健室や病院、福祉施設といった、「医療」に関するものを想起させた。そこに、故河合隼雄先生が現れたものだから、俺はここを心理関係の病院だと判断した。

 そこに2人の外人が現れて、俺に診察を依頼した(ということは俺はここのスタッフなのか)。一人は男性で一人は女性だった。男性は背が高く、上半身をまとっているYシャツの隆起は堅牢な肉体を物語っていた。眼鏡をかけていて、仕事は常に合理的な判断で迅速にこなし、休日はジムに行き体を鍛えている、みたいなエリートのサラリーマンのようであった。俺はその人から冷静な知性を感じ取り、この人は内向的思考型だと思った。女性はプルシャンブルーの上下のスーツを身にまとっていて、それは思わず触ってみたくなるような上等な素材でつくられているもののように見えた。髪型はウェーブがかかったブロンドのロングで、服装と相まってエレガンスな雰囲気を醸し出していた。しかしながらそれはあくまでもその衣装が発するものであって、その衣装が覆っているその人そのものからは、何か躍動的な、ジャングルを巡るチーターのような軽快なフットワークを俺は感じ取り、この人は外向的感覚型だと思った。

 二人は何を俺に相談し、俺は二人に何を話したのか……くそ、一番大切な部分じゃないか、なのに忘れてしまっているだなんて。

 

 

 

 「一番大切な部分」と表現したのは、私は生まれ変わったら、カウンセラーになりたいと夢見ているから。心理学を、独学じゃなく正式に勉強して、心の病を持った人たちを治したいと思うから。

 「治す」というのが傲りだというのならば、ただその人の闇や虚無を吸収するだけの存在でもいい。それでその人の心が澄み切ったものになるのなら。過酷で直視しがたい現実を、今、そこに生きるしかないのだと、解決する手立てがどうしても見つからなくても、少しでも前向きになって生きようと思えるのならば。

 吐き出してみてほしい。その、灼熱と冷気が混じり合ったもの、矜持と恥じらいが混じり合ったもの、論理と感情が美しいバランスで一体となったもの、頑強なものが頑強なものによって壊されているもの、自分と自分が交わした会話のこと、未だ魂の底で燃え続ける緑色の炎のこと、どうしても是認できない人がいること。

 それらを口にすることは大変な苦痛を伴うでしょう。なので少しずつで構いません。自分の中の何かが崩れそうな気配を感じたら、そこで打ち切ってもらっても構いません。破壊的な感情を出しても構いません。建設的な論理が生まれたとしてもいう無理に言う必要はありません。私はあなたの話をすべて聴く者です。

 

 涙が止まらない。何でかわからない。

 

 

 

 さっきまでの空間の隣にある部屋に俺は移動していて、そこには一台のパソコンがあった。先ほどのブロンドの女性が男性と腕を組んで俺のそばにやってきた。俺はそれを見て、ああやはり二人は付き合っているのかと、やや残念な気持ちになった。俺はその自分の感情を自分で認知し、俺はその女性に好意を抱いていたのだな……と思っていると、男性はパソコンの前にある椅子にドカッと座った。そしてよく見ると、その男性は先ほどのエリートのサラリーマンではなかった。

 奇抜な恰好であった。あまり覚えていないので微細な描写はできないが、何かチェーンのようなものが四肢のいずれかに巻かれていて、ボーダーの靴下のようなものが見えた。その者が着ている服の総合的な色の数は7色くらい使われていて、その色彩感覚は否応にも他人との距離を作った。髪の毛は金髪で顎のあたりまで伸びていて、それはおしゃれというよりは散髪が億劫で伸ばしっぱなしみたいな印象だった。

男性はうつむいていて誰とも目を合わせようとしなかった。彼のファッションを認識した時から、俺はこの男性に対して若干の嫌悪の念を抱いていたから、仮に目を合わせたとしても必要最低限の社会礼儀を形式的に済ませるだけで、それ以上関わろうとは思わなかったが。

男性は俺の動向を気にしているようだった。もっともそれは俺の主観でしかない。

 

 最初にいた部屋に戻った。河合先生がカルテを持っていた。誰のものかは分からない。先ほどのエリートサラリーマンのものだろうか。

 そのカルテの冒頭は以下のようなものだった。

「rememberが対応したが難しかったようで……」

 どうやら僕が患者を治療しようとしたのだが、かなり難しい病気だったらしく、途中から河合先生が対応した、ということらしかった。そして患者の病気は脳の病気のようだった。何か脳を蝕むものが脳の中に寄生しているらしい。そう思ったとき、人間の脳の中の、一種の個室ともいえるヴィジョンが現れた。頭蓋骨の内側、本来脳が格納されている箇所、そこに在ったのは脳ではなく、黄土色の蛇がとぐろを巻いてそこに鎮座していた。汚い比喩で恐縮だが、俺はその色合いから大便のようだと思った。

 脳の中に大便みたいな蛇がいる……そう認識したら気持ち悪くなった。

 

 そういえば以前一人暮らしをしていた時、魚を刺身にして食べようとその魚の腹を裂いたら、腹の中から別の魚が出てきて、得も言われぬ生理的嫌悪感を抱いたのを覚えている。おそらくこれは、「生き物の中に生き物がいる」ということだと思う。それに対して気持ち悪いと思ったのだと思う。その魚は2匹とも捨てた。食べる気がしなかった。

 

 

 

 俺はカウンセラーとして実力や経験が不足しているようだった。そう人から評価されることは非常につらいものがあるけれど、河合先生の言葉だったら素直に受け入れられた。なぜなら俺は河合先生を尊敬しているからだ。その気持ちに偽りはないからだ。

 

 僕は自分より頭がいい人からの評価がほしいのだ。