rememberのゆめにっき

現実のことも書くが

ノードラッグ、ノンアルコールで爆発しよう

「今迷っていることがある」

「迷っていることとは?」

「薬を飲んで今の辛い状態を軽くするか、それとも飲まずに苦しいまま過ごすか」

「薬とは?」

「精神科の薬。脳に直接影響を与えるもの」

「辛い状態と言ったが、具体的にどんな状態?」

「……それはまだ具体的に言語化できない。思いつく限りで言えば、虚無感があって、孤独感があって、未来に絶望していて、何の楽しみもなくて……っていうとこ。抽象的で何一つ分からないだろうけど。なんか具体的に言うことに対して羞恥があるな」

「ああそう。しかし薬を飲んで、それらの状態が緩和されるのであれば服用すればいいのでは?」

「それに対しては少し憚りがある」

「憚りとは?」

ナチュラルなものが一番強い、っていう考えがあるから」

ナチュラル?」

「うん。つまり、自然な、何にも毒されていない状態、薬とか酒とかタバコとか、そういうのに依存していないって言うことかな。ジャンキーってのは良くない。……まあ酒は飲んでるけど。

 この思想は昔聴いていたロックンロールのバンドの歌詞に影響されたものなんだ。真心ブラザーズっていうバンドなんだけど。真心の曲で『素晴らしきこの世界』っていうものがあって、その中の歌詞に、

『ノードラッグ、ノンアルコールで爆発しよう』

というものがあったんだ。俺はそれにすごく感銘を受けてね、そう、そうやって生きるべきなんだ、って。酒の力で暴れるのはみっともない、ナチュラルな状態で生きる力を爆発させよう、っていう」

「なるほど。つまり薬を服用すると、そのナチュラルな状態ではなくなってしまい、自分の思想に反してしまうと」

「うん……まあそうなんだけど、ただ……どうなのかなあ、別にそんな思想もうどうでもいいっていうか、もう生きていく気力なんて、ほとんどないわけ。昔は未来に希望を持ててたんだけど、今はもう持てないわけ。等身大の自分を知っちゃったのね。未来に希望を持てるから人は努力できるわけであってさ、もう俺は未来に対して希望がないわけ。だから頑張れないわけ。今までストイックにやりすぎてたのかもしれないし」

「……なんか話が全然見えねえんだけど」

「ああそう。とにかくまあそんなだから、もう薬を飲んでもいいんじゃないかっていう気持ちはある。自分の思想を守るよりかは、今の虚無感が晴れるほうを取る……かなあ。でもあれ副作用とかもあるんでしょ。それもちょっと気にはなるけど」

「まあ好きにしたらいいんじゃね」

「……でもなあ、その前に一回、カウンセリングを受けてみたいんだよなあ」

「カウンセリング?」

「そう。つまり、薬物療法じゃなくて精神療法。薬を使わずに済めばそれに越したことはないしね。そう考えてしまうあたり、やっぱりまだナチュラル志向なんだな」

「カウンセリングねえ。なんかうさん臭そうだぜ。ただ悩みを相談してアドバイスをもらうだけだろ。それで今の状態が解決するかね」

「いや、アドバイスはしないらしいよ。俺は河合隼雄さんのカウンセリングの本を読んだことがあるんだけどね、どうも解決する力というのは、クライアント……まあ相談する側の方だね、その方が持っているということなんだよ。そしてカウンセラーはそれを引き出してやって、アドバイスというのは基本しないということなんだ」

「ほう」

「俺はその考えが面白いと思った。今の状態を覆す力……それは、俺自身が持っているんだ。そう考えると、少し希望が湧いた」

「……」

「もっとも、全てのカウンセラーがそう考えているわけじゃないだろうが」

「そりゃそうだな。どこのカウンセリングルームに行こうとしているんだ?」

「ここから北西の方に所に行こうと思う。かなり遠いんだが。そこは二人のカウンセラーが同時にカウンセリングするらしい」

「変わってるな」

「とりあえずそこに行こうと思っている。ただ今月のバイト代が入ってからだな。今金欠なんだよ」

 

 あたかもカウンセリングを受けるのは初めてのような語り口調だが、実は以前一回受けたことがある。そしてその事実は両者とも周知の事実であった。何故なら二人は同一人物だからである。これはrememberの、自分自身との対話であった。